賃金とは,使用者が労働者に労働の対価として支払うものであって,広義では日月給(狭義の所定賃金),賞与,割増賃金(残業代),退職金といった種類があります。賃金の支払に関しては,法律で細かな定めが設けられており,使用者はそれらの定めを遵守しなければなりません。
残業代の未払い
残業代の未払が問題となる類型としては,①サービス残業を強いる事例,②実体が伴っていないにもかかわらず肩書だけ管理職の名が付され,残業代が支払われない事例(いわゆる「名ばかり管理職」問題),③法律に従って算定される金額に満たない固定残業代しか支払われない事例等がありますが,いずれの事例においても,労働者は使用者に対して残業代の支払を請求することができます。
賃金の切り下げ
使用者が賃金額を含む労働条件を一方的に不利益に変更することは,一定の例外を除いて原則的に認められません。したがって,使用者から一方的に賃金を減額された場合,減額分は未払賃金として請求することができます。
賃金請求権の時効
退職金以外の賃金の請求権は2年,退職金の請求権は5年の消滅時効がありますので,未払賃金があることが判明した場合には早期の対応を執らなければなりません。
労働契約終了の制限
労働契約の終了には,有期雇用契約における更新拒絶(雇止め),使用者からの一方的解約である解雇,労働者からの一方的解約である退職があります。
このうち,更新拒絶と解雇については,使用者が労働者の意思に基づかずに労働契約を一方的に打ち切るという極めて不利益の大きな処分であるため,労働者保護の観点から法律による一定の制限が設けられています。
法律の定めに違反する更新拒絶や解雇は無効となります。無効な更新拒絶や解雇を受けた労働者は,労働者の地位にあることの確認を求めたり,無効な更新拒絶や解雇のために就労できなかった期間の賃金の支払を請求することができます。
退職強要
使用者から自主退職を勧められることがありますが(退職勧奨),当然ながら労働者がこれに応じる義務はありません。しかし時に,労働者が明確に退職の意思がないことを示しているにもかかわらず,執拗な退職勧奨が繰り返し行われることがあります。
退職勧奨の手段・方法・目的が社会通念上相当性を欠く場合には,違法な退職強要となり,それ自体が不法行為として損害賠償請求の対象となることがあります。また,違法な退職強要の結果として退職届を出してしまった場合には,当該退職届の効力を争うこともできます。
職場でのいじめ,パワハラ,セクハラは,様々な動機や態様で行われます。例えば,退職勧奨に応じない労働者を退職に追い込むという動機の下にいじめ等が行われることもあります。また,いじめ等の手段として配置転換等の業務命令が用いられることもあります。
労働者には,良好な環境で就業する権利や能力に相応する処遇を受ける権利といった,労働環境上の様々な権利・利益が保護されていると考えられています。
いじめ等によって労働者のこれらの権利・利益が侵害された場合には,不法行為として損害賠償請求の対象となります。また,労働者が,いじめ等が原因でうつ病等の精神疾患を発症した場合には,労災認定の対象となる可能性があります。
使用者の支配・管理下で業務に従事している際に負傷や疾病を発症し(業務遂行性),かつ,業務と傷病等の間に一定の因果関係(業務起因性)が認められる場合には,労災保険による給付を受けることができます。また,使用者に安全配慮義務違反が認められる場合には,労災保険による給付で補填されない部分について使用者に対する損害賠償請求をすることができます。
よくあるご相談内容
残業代を支払ってもらえないので請求したい。
一方的に賃金や労働条件を不利に変更されてしまい,納得いかない。
解雇処分を受けたが,納得いかない。
有期雇用契約だったが更新を拒否されてしまい,納得いかない。
執拗な退職勧奨を受けている。
いじめ,パワハラ,セクハラを受けている。
仕事中に怪我をしてしまったが,労災保険や使用者から適正な補償を受けたい。